大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1847号 判決

控訴人は、右組合は支払能力がなく、前記福田正治も行方不明となり、右手形金額四〇万円の支払を受けることができないため、これに相当する金員の損害を受けたものであるが、これは被控訴人両名がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があつたことによると主張するので、これについて審究する。

(証拠)いずれも一部を綜合すると、以下の事実が認められる。

福田正治はパチンコ営業の開業資金にあてるため共栄商工業協同組合に新たに加入して、右開業資金四〇万円の借用方を申し込んだが、同組合には当時貸付資金がなかつたので、右組合の理事たる被控訴人副島種義は同秋田五郎をして、右福田に金融を得させる目的のもとに同人に宛て、前記のように組合代表者副島種義名義をもつて額面四〇万円の約束手形を作成させこれを右福田に交付したこと、その際右福田は手形の満期には手形金額の払込をなし組合に対しては迷惑をかけない旨を約したが、被控訴人等は右申出を間違ないものと信じていたこと、ところで同組合はこれより先昭和二六年一二月三一日に東京信用保証協会の保証のもとに帝国銀行新橋支店から金五五三万円を借り受け、これを一般組合員一名に対し各金五万円宛、組合理事一名に対し各金一〇万円宛貸与したが、貸付金の回収が不良のため、弁済期たる昭和二七年三月三一日に金三〇七万円を右銀行に返済したのみで、その余は同年六月三日右協会の代立弁済を受け、その後同協会に一部支払をなしたが、残金はなお二一九万円存していたこと、組合はこの苦境を切抜けるため同年四月一日頃、更に融資を得んとして金五四〇万円の保証方を同協会に申し込んだが、弁済不良の故をもつて拒否されたため、役員を改選するとともに新たに組合員を募り出資金を得て打開を図ろうとしたが、これ又成功せず、新規の融資の実現が極めて困難であり、又後記預金の状況に照らしても、組合としては福田から金四〇万円の払込がなければ前記手形金の決済ができない状態にあつたこと、又同組合は従来前記手形振出当時株式会社帝国銀行五反田支店及び同新橋支店と当座預金取引があつたが、本件約束手形振出の頃その支払の場所とされている右五反田支店においては、昭和二七年五月一日当時の残高は金九、六四四円五〇銭であり、その後同月二七日までに数回の預入れ及び引出しがあつたが、いずれもその額は金一万円を超えず、その間預金残高は終始金一万円内外であり、たゞ同月三〇日には金五〇万円が入金せられたが、それも翌日には金四五万円、同年六月二日には金四万円が引出され、しかも六月二日には金一〇万円の小切手が不渡りとなつた状態で、同年七月一五日には遂に当座取引は解約となり、新橋支店においてもその頃解約され、又その頃手形交換所の取引停止処分を受けたのであつて、その当座取引は極めて不安定な状態においてなされていたこと、なお被控訴人副島は右手形の振出に先立ち、組合の専務理事斎藤勝義をして福田の営業状態を調査せしめはしたが、斎藤は福田の信用及び資産状態等については何ら調査することなく、単にそのパチンコ店の店舖の内外について約二〇分間程客の入り具合、造作等を観察したのみで、営業状態は良好であると速断し、その旨を被控訴人副島に口頭をもつて報告したものであり、被控訴人副島はこれをもつて満足し、被控訴人秋田は副島の手形の決済は間違ないとの言をそのまゝ信用し、前記の如く右手形を振り出すに至つたこと、福田は十分な資力並びに経営能力なく、幾何もなくして右事業に失敗して行方をくらまし現在に至つていることが認めらる。

以上の認定事実に徴すれば共栄商工業協同組合は前記約束手形の振出当時である昭和二七年五月九日当時経営に行詰つていたもので二、三ケ月先においても容易に立直る見込がなかつたこと、従つて右手形金は福田において決済資金を供与しない限り独力で決済し得ない状況にあつたことは、組合の理事である被控訴人副島及び同秋田において十分予見承知のことであつたものと認めることができる。

しかして、金銭又は手形等を借受けんとする者が期日に返済すると申出でることは常套のことで、唯この申出のみを信頼して貸付をするがごときは金銭等の貸付を業務とする協同組合の理事として誠に心得ぬ次第で、他に弁済を確保する方法を講ずべきである。従つて、前記の如き状況の下に債務者の資産内容、信用状態等に十分な調査を尽くさず何等担保を得ることなく、前段認定の如く信用程度の低い組合員に組合員貸付の限度をはるかに上廻る約束手形を振出し交付したことは、組合理事として少くとも業務執行につき重大な過失があつたものと断ぜざるを得ない。

されば、右手形を取得したものが、その不渡りにより手形金の支払を得られず損害を蒙むるに至つたときは、右手形振出に参画した理事は、中小企業等協同組合法第三八条の二第二項により連帯してその賠償の責に任ずべきである。

(二宮 奥野 大沢)

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